リーダーと考える経営の現場・第2回 リーダーシップに立場は関係ない

 

「リーダーと考える経営の現場」では、今回から数回にわたり、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。

今回は、第1回で記載した「リーダーシップ=経営者の問題」、つまりリーダーシップとは経営者にだけ必要なものであって、(経営者の指示に従うサラリーマンなど)それ以外の人々にはあまり必要ではないという誤解について記載します。

多くの人は、リーダーシップとは、スポーツチームならばキャプテン、地方自治体ならば知事や市長、会社ならば社長というように、組織のトップが発揮するものと考えています。確かにキャプテンにリーダーシップがあればそのスポーツチームは今よりも良くなるでしょうし、知事や市長にリーダーシップがあればその地方自治体は今よりも良くなるでしょう。そして、社長にリーダーシップがあれば会社は今よりも良くなると思います。

しかし、結論から言うと、リーダーシップとは組織のトップにだけに必要なものではありません。本来、リーダーシップとは、ありとあらゆる人が発揮すべきもので、リーダーシップに組織における立場は関係ないのです。

なぜこのような誤解が生まれるかというと、理由の一つに、一般的な人々が考えるリーダー像の多くに「マッチョなリーダー像」があるからだと思います。「マッチョなリーダー像」とは、ネアカで、常に強い人で、いつでも「俺について来い!」と言って先頭を走っている組織のトップというイメージです。この「マッチョなリーダー像」が、一般人にとって、まばゆいばかりに燦然と輝くため、多くの人は自分と組織のトップとは違う種類の人間だと考えるようになるのだと思います。

また、誤解が生まれるもう一つの理由は、組織のトップには、組織や自分を正しく導いてくれる優れたリーダーシップがあって欲しいという「願望」があるからではないかと思います。この「願望」は、自分の組織の「トップ任せ」という「他人任せ」や、組織において自分がリーダーではなくフォロワーであると定義したいことと密接に繋がっていると思います。こうした「願望」は、組織に対する責任の放棄、自己保身の裏返しなのだと思います。

しかし、「真実」は、必ずしも組織のトップでなくとも、正しいリーダーシップを発揮すれば、会社を今よりも良くすることができます。例えば会社に入ったばかりの新入社員であったとしても、本当に、実現可能性があって、なおかつ、会社のため、社員のため、お客様のためになることであれば、上司である「管理職」や「経営者」など全てのステークホルダーを動かすことができるのです。

この「真実」を見えづらくさせているのは、リーダーシップの概念とは別に、組織の指示命令系統上の制度的権限など「パワー」による影響力という別の評価軸があるからです。会社の社長を例にとると、社長が夢や共感などの「リーダーシップ」の力で部下を動かしているのか、社長という組織における地位や権限などの「パワー」で部下を動かしているのか、そこの見極めが難しいのです。もしかすると部下は、社長の掲げる夢や社長に対する共感などの力で一生懸命働いているのかもしれませんし、逆に、社長が言っているからしょうがないと思って働いているのかもしれません。

多くの人に経験があるように、夢や共感などの「リーダーシップ」の力だけでなく、組織の地位や権限など「パワー」でも、人は動くのです。一人の人間の持つ影響力は、「リーダーシップ」と組織における地位や権限など「パワー」とが混在しているため、その人の持つ本来のリーダーシップが周りの人からは分かりづらくなってしまうのです。

現在、私は、今までの会社経営の経験を活かし「プロ経営者」として、様々な会社の経営支援をしています。その際、クライアント企業との関わり方も様々で、中にはクライアント企業において確たる地位をいただかない案件もあります。その場合、私は社外からリーダーシップを発揮することになるのですが、私が正しいリーダーシップを発揮していれば、組織の地位や権限など「パワー」がなくとも、私の考えがその会社で採用されて、結果として、会社の方針となって、その方針に従って、多くの社員が動いてくれるようになります。そのとき、私には「パワー」は一切ありません。そこにあるのはリーダーシップだけです。

組織のトップの人たちを見ても、昔からリーダーシップがあったからこそ、「結果として」、気がついたら組織のトップになっていたという人が数多くいます。その人たちは、組織のトップになってから急にリーダーシップを発揮したのではなく、「一般スタッフ」であったり、「管理職」であったりした時代から、正しいリーダーシップを発揮していた人がほとんどです。

つまり、リーダーシップに立場は関係ありません。社内であれ、社外であれ、どんな立場であれ、正しいリーダーシップを発揮していれば、人を動かし、会社を動かすことができ、その会社を今よりも良くすることができます。

 

「リーダーと考える経営の現場」

第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」

※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年1月19日公開の「リーダーと考える経営の現場・第2回 リーダーシップに立場は関係ない」を転載したものです。

リーダーと考える経営の現場・第1回 はじめに

 

「リーダーと考える経営の現場」では、経営の現場で起きていることを、改めてリーダーシップの観点から捉えなおすことによって、読者の皆さんとともに、会社に関わる全ての人のリーダーシップのあり方について考えていきたいと思います。

今後、本連載を読んでいただくことによって、読者の皆さんが、それぞれの会社でそれぞれリーダーシップを発揮していくようになり、多くの人にリーダーと評されるようになることを願っています。そのため、本連載のタイトルは、あえて「読者の皆さんと考える経営の現場」ではなく「リーダーと考える経営の現場」とさせてもらいました。

早いもので私が経営の仕事に携わってから10年以上になりますが、どっぷりと経営の仕事をしている中で気が付いたことがあります。

それは、経営の現場で起きていることは、その人にリーダーシップがある・ない(もしくは、リーダーシップ的思考の強い・弱い)によって、まったく同じ事象が起きていても、まったく違うように見えているということです。

たとえ同じような方向性で会社を良くしたいと考えており、日々一丸となって努力をしている素晴らしい「経営者」・「管理職」・「一般スタッフ」のチームワークがあったとしても、リーダーシップがある・ないによって、違う景色が見えているのです。

最初は、私も、ただ単純に「経営者」・「管理職」・「一般スタッフ」という立場の違いから、経営の現場で起きていることに対して、捉え方が違うものだと思っておりました。しかし、実際に多くの人にヒヤリングをしてみると違うのです。「経営者」であっても「一般スタッフ」のような話をする人はいるし、「一般スタッフ」であっても「経営者」のような話をする人がいるのです。そこにあるのは、立場の違いではなく、その人がリーダーシップの観点から物事を捉えているかどうかなのです。

経営の現場で起きていることは、会社を取り巻く様々な立場の人たちによって、様々な評論が加えられていきます。様々な立場の人たちが、それぞれの立場で意見を言うのは当然です。しかし、同じベクトルの人たちであっても、リーダーシップの考え方のある・なしは、物事の捉え方に大きな影響を与えます。当たり前ですが、物事が全く違うように見えていれば、徐々に行動も変わっていくものです。ここに経営の難しさがあります。

このような経験の中で、私は、経営の現場で起きていることを、改めてリーダーシップを軸に捉えなおしたら、会社経営の本質をより理解することができるのではないかと思ったのです。本連載では、様々な経営の現場を、リーダーの目線から考えていきたいと思います。

「リーダーシップ」と「経営」という2つのキーワードが出てくると、本連載の読者ターゲットが経営者だけのように思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、それは違います。本連載の読者ターゲットは、会社に関わる全ての人です。会社に関わる全ての人とは、社内スタッフである「経営者」・「管理職」・「一般スタッフ」だけではなく、社外である取引先、株主、お客様、そして地域社会の人々をも含まれています。

私は、現在の日本社会において、「リーダーシップ」の捉えられ方には多くの誤解があると考えています。その代表例が、前述のリーダーシップ=経営者の問題という考え、つまりはリーダーシップとは経営者にだけ必要なものであって、(経営者の指示に従うサラリーマンなど)それ以外の人々にはあまり必要ではないという考えではないかと思います。

私は、若い時分から縁あって、「サラリーマン経営者」として、様々な会社経営に関与してまいりました。その過程で、上場企業の代表取締役社長を務めたり、伊豆シャボテン公園グループといった老舗レジャー施設の企業再生をしたり、貴重な経験をさせてもらいました。そして、現在は、代表取締役を務める株式会社スーツで、今までの会社経営の経験を活かし「プロ経営者」として、時価総額100億円以下の会社を中心に、業種業態・成長ステージ問わず様々な会社の経営支援をしています。

そのため、本連載の内容は、私はリーダーシップの学術的な専門家ではありませんので、経営の現場を通じて身に着けたリーダーシップの見地から、経営の現場を捉えなおしたものであるということが正確な表現になろうかと思います。

今後、本連載では、次回以降「リーダーシップ」の考え方について、ほんの少し私の考えを記載させていただいた後に、経営の現場で起きていることを、読者の皆さんとともに、改めてリーダーシップの観点から捉えなおしていきたいと考えています。それによって、読者の皆さんが、新しい「気づき」を得るきっかけとなり、実際に会社生活でリーダーシップを発揮してもらうようになって、より良い会社生活に繋がればと考えています。

今後、「リーダーと考える経営の現場」では、皆さまの期待に沿えるような連載をしていきたいと思います。

 

「リーダーと考える経営の現場」

第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」

※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年1月7日公開の「リーダーと考える経営の現場・第1回 はじめに」 を加筆・修正したものです。