執筆者 小松 裕介 | 2月 27, 2019 | CEO

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。
リーダーごとにそれぞれ自然体のリーダーシップのスタイルがあるわけですが、今回のテーマは、日本社会ではまだまだ新しいリーダーシップのスタイルであるサーバント・リーダーシップについてご紹介したいと思います。
このサーバント・リーダーシップですが、数年前に、ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)の代表取締役会長兼社長の柳井正氏が、「社員全員と経営者全員に『サーバント・リーダー』になってもらいたい」と言ったことでも注目を集めたリーダーシップのスタイルです。
サーバント・リーダーシップは、今から約半世紀前の1970年に、ロバート・グリーンリーフが提唱した「リーダーは、まずフォロワーに奉仕し、その後、フォロワーを導くものである。」というリーダーシップのスタイルです。
サーバント・リーダーシップは、「召し使い」、「使用人」や「奉仕者」という意味のサーバントと、フォロワーをぐいぐいと率いる一般的なリーダーのイメージであるリーダーシップという正反対の2つのイメージの言葉を一つにしたものです。この相反する2つのイメージを両立しているところが、サーバント・リーダーシップの凄さであり魅力なのです。
第2回で、一般的な人々が考えるリーダー像として、ネアカで、常に強い人で、いつでも「俺について来い!」と言って先頭を走っている組織のトップという「マッチョなリーダー像」を紹介しましたが、まさにサーバント・リーダーシップは真逆のリーダー像なのではないかと思います。
「マッチョなリーダー像」の多くのケースでは、フォロワーとは、まさに「俺について来い!」という強烈なリーダーシップについてきた人、正確には、リーダーについて行くことができた数少ない人なのです。そこにはリーダーのフォロワーに対する配慮や支援などを感じさせないぐらいの「マッチョなリーダー像」の厳格さや底抜けのエネルギーがあるわけです。これに対して、サーバント・リーダーシップでは、リーダーは、フォロワーに対して、明確なミッションやビジョンを示して、それを遂行するフォロワーを支えます。
リーダーは自分のミッションやビジョンを実現させるためにフォロワーがいると考えてはなりません。リーダーもフォロワーも、ミッションやビジョンを達成するという共通の目的の下では、立場は関係ないのです。ミッションやビジョンを実現するために、多くのフォロワーが、所属する組織やリーダーのために行動してくれるわけです。そのため、サーバント・リーダーシップでは、フォロワーがより活躍しやすいように、環境を整え、支えるのがリーダーの役割なのです。
サーバント(奉仕)の部分だけにスポットがあたってしまってはいけません。勘違いをしてはいけないのは、サーバント・リーダーシップは、フォロワーを支える“だけ”ではありません。やはりリーダーは、世のため人のため、夢や理想のために、フォロワーに対して、しっかりとした方向性を示す必要があります。
経営学においても、大企業のケーススタディで、逆三角形の図で表した会社組織の事例がいくつもあります。この逆三角形となる会社組織とは、社長が一番下で、社員の中でも、最前線の現場社員が一番上となるような組織設計です。会社の経営層は、現場社員に対して、しっかりとした経営方針を提示するとともに、現場社員の実行を支えていくというものです。ちなみに前述のユニクロの柳井氏の事例でも、同氏は「店舗のスタッフ一人ひとりを主役にする。そのために我々が全員でサポートしていく。」というような説明をしています。
以前紹介した、リーダーのフォロワーや周囲の人々の捉え方の一つの価値観である「人は性善なれど弱し」ですが、この考え方にはサーバント・リーダーシップがしっくりきます。リーダーがフォロワーを「弱い」と定義しているわけですから、リーダーからすれば、そのフォロワーは手を差し伸べ、助けて支える対象になります。リーダーによる支援や援助がなければフォロワーは「弱い」ままで、リーダーとともに、ミッションやビジョンを実現することができません。
また、この価値観に基づくと、リーダーが、正しくサーバント・リーダーシップを発揮できているかどうかのチェックも簡単にすることができます。正しくサーバント・リーダーシップが発揮されている場合には、リーダーに支援されたフォロワーが人間として成長するのです。もし従来の「マッチョなリーダー像」だと、ともすれば、フォロワーは自力でリーダーについて来ることが求められているだけで、リーダーがフォロワーのことをきめ細やかに見られていない場合もあるでしょう。サーバント・リーダーシップでは、リーダーが「弱い」フォロワーを常日頃から支えているため、彼らは自然と「強く」なっていくのです。
リーダーシップには様々なスタイルがありますが、サーバント・リーダーシップは「人は性善なれど弱し」という価値観に最もマッチする考え方だと思います。フォロワーに対して価値ある目標を示し、それに取り組むフォロワーを支えて、フォロワーを奉仕するのがサーバント・リーダーなのです。その結果、フォロワーや周囲の人々は「強く」なり、その人が本来持っている性善なる力を、世のため人のため、夢や理想のために発揮できるようになります。
「リーダーと考える経営の現場」
第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」
※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年5月19日公開の「リーダーと考える経営の現場・第8回 サーバント・リーダーシップ」を転載したものです。
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
2013年3月にソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社前身の株式会社スーツ設立。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し上場会社の子会社化を実現。2022年12月に株式会社スーツを新設分割し当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。
執筆者 小松 裕介 | 2月 27, 2019 | CEO

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。
今回のテーマは、優れたリーダーは常に自然体であるということをご紹介したいと思います。リーダーのあるべき行動様式である「あり方」とは、一つ一つの行動である「やり方」と違って、リーダーの人間性そのものです。人間性は偽ることはできません。だから、リーダーは自然体で構わないですし、自然体であってもフォロワーを魅了できなければなりません。
私が人を動かすにはリーダーシップが大事だという話をすると、必ずと言っていいほど、「どのようにやればいいですか?」とか「どのようなテクニックですか?」という質問を受けます。しかし、リーダーシップとは「あり方」であって、「やり方」ではないのです。
分かりやすい具体例ですが、前回、リーダーに不可欠な「人として正しい」という価値基準をご紹介しました。子供の時に両親や先生などから教えられた「人として正しい」という普遍的な道徳観や倫理観に基づいた価値基準が、「やり方」の話ではないことは読者の皆さんにもご理解いただけるものと思います。
これに対して、「やり方」とは一つ一つの行動です。特によく挙げられるのは、心理学などを駆使した情報操作や印象操作、プロパガンダやマインド・コントロールなど、一時的にその人が有利になるような行動です。これらの「やり方」を駆使する人は、利己的な考えを持った人です。彼らは、自分のために、どうにか周囲の人々を動かしたいという考えから、これらの「やり方」を駆使するのです。
日々、私は経営支援をしているクライアントに対してリーダーシップの話をさせてもらっているのですが、「善人のリーダーは損をする」、「仕事ができるヤツは嫌なヤツである」、「利己的でズルいヤツが成功する」、そして「「やり方」を駆使しないと成功できない」と考えている人たちが多いことに驚きます。
しかし、真実は、「やり方」を駆使する嫌なヤツやズルいヤツのうち一定数はうまくやりますが、成功者と言われる方たちの中でも頂点のほうに位置する人々は、「あり方」がしっかりした自然体でも魅力的なリーダーなのです。
利己的な人は、初めのうちは成功しそうに見えるものです。しかし、長い目でみれば、彼らは、本来ならば成功するために必要とする環境そのものを破壊しかねないのです。
マキャベリズム(目的のためには手段を選ばないやり方。権謀術数主義。)のように策略に長けて利己的であれば、いずれは、フォロワーはもちろん、周囲の人々もそれに気づくのです。そもそも、権力の座に就く前に、周囲の人々に報復されれば、そのような「やり方」は意味がありません。また、例え成功したとしても、成功への道は「やり方」を駆使して人を動かすことだと示してしまったので、周囲の人々も同じようなことをするようになります。そして、自分と同じように利己的な考えを持ち「やり方」を駆使する人を作り出すことになるのです。一方で、善良な人々はあなたの下から去っていきます。波及効果が広がり、あっという間に「やり方」があふれてしまうのです。
長い目で見ると、「やり方」では上手くいきません。努力を極めて成功を成し遂げるには、利己主義を超越し、周囲と信頼し合い、協力関係を築くという「あり方」を身に着けた自然体なリーダーでなければなりません。皮肉な話、例え犯罪者が悪事で成功するためにも、このことは鉄則なのです。
優れたリーダーは、フォロワーの不安を鎮め、希望を引き出し、望みを高め、力を与え、ポジティブな行動へと駆り立てます。私たちが常に心に留めておかねばならないのは、中長期的には、「やり方」ではフォロワーや周囲の人々は動かないということです。
「やり方」では、いつかフォロワーが離れてしまうものです。「やり方」を駆使して、フォロワーや周囲の人々をずっと騙し続け、動かし続けることは難しいのです。読者の皆さんにも経験があるかもしれませんが、リーダーのたった一言で、フォロワーは興ざめしてしまうこともあるぐらい、信頼関係とは繊細なものなのです。
リーダーは「あり方」が大事です。リーダーの感情、価値観、パーソナリティといった人の心が持つ力を理解しなければなりません。そのためには、リーダーとしての「あり方」を身に着け、自然体であっても、フォロワーがついて来るようでなければなりません。
繰り返しますが、リーダーシップとは「あり方」であって、「やり方」ではないのです。ありのままの自分、人間性が大事だからこそ、自然体で勝負できるリーダーになる必要があります。優れたリーダーは常に自然体で、それでいて、常にフォロワーや周囲の人々を魅了し、正しい方向に導いていくのです。
「リーダーと考える経営の現場」
第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」
※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年5月7日公開の「リーダーと考える経営の現場・第7回 リーダーは自然体」を転載したものです。
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
2013年3月にソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社前身の株式会社スーツ設立。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し上場会社の子会社化を実現。2022年12月に株式会社スーツを新設分割し当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。
執筆者 小松 裕介 | 2月 27, 2019 | CEO

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。
今回のテーマは、リーダーのあるべき行動様式である「あり方」に不可欠な「人として正しい」という価値基準をご紹介したいと思います。
「人として正しい」とは、ごく一般的な道徳観や倫理観に基づいた価値基準です。それは、子供の時に両親や先生などから教えられた、普遍的な「人として当たり前」のことです。
改めて「人として正しい」というと、経営の現場からかけ離れた崇高・高尚・深淵なテーマで、小学校の道徳の授業のような内容に思われるかもしれません。しかし、今後、読者の皆さんがリーダーシップを発揮していき、様々なステークホルダーに対して、より広範に影響力を行使していくためには、この「人として正しい」とは何かを改めて見つめなおさなければなりません。
第4回で、リーダーがフォロワーや周囲の人々を捉える際の価値観の一つとして「人は性善なれど弱し」をご紹介しましたが、基本的に「人は性善」なのです。性善なフォロワーは、性善な道徳観・価値観を持ったリーダーについていきます。そのため、リーダーがより多くの人々に影響力を行使するためには、「人として正しい」ことは、優れたリーダーシップに欠かせない要素なのです。
例えば、「嘘をついてはいけない」、「騙してはいけない」などズルくてはいけませんし、「強欲ではいけない」、「利己的ではいけない」など自己中心的な考え方ではいけません。また、困っている人がいたら救いの手を差し伸べたほうがいいでしょうし、家族、友達や仲間は大切にしたほうがいいでしょう。これらはみな「人として正しい」と評価されるであろう、ごく一般的な道徳観や倫理観に基づいた価値基準の範囲内のことだと思います。
それこそオリバー・ストーン監督の映画「ウォール街」でマイケル・ダグラスが演じた投資家ゴードン・ゲッコーの名ゼリフ「Greed, for lack of a better word, is good.(他に言葉は見つからないが、強欲は善だ)」が象徴的ですが、経営の現場では、自分の中にある一般的な道徳観や倫理観が揺らぐような場面に出くわすことがあります。
近年、大企業の不祥事が相次いでいます。東芝の粉飾決算、日産自動車やスバルの無資格者検査問題、神戸製鋼、三菱マテリアルや東レの品質データ改ざんなどです。これらの大企業も、最初から不正をしていたわけではありません。リーダーシップの欠如により、ごく一般的な道徳観や倫理観に基づいた価値基準をはみ出してしまったわけです。
リーダーは、いついかなるときも、「人として正しい」ことをしなければなりません。リーダーは、追従してきてくれるフォロワーのためにも、「焼け火ばし」を持って我慢をしなければならないのです。コンプライアンスの問題であったり、お金にまつわる問題であったり、絶対に乗り越えなければならない現実の課題を前にしても、「人として正しく」いられるか。会社の資金不足や複雑に絡まったステークホルダーの利害関係など様々な現実の問題に対峙しつつも、「人として正しい」行動をとることができるか。リーダーとしての真価が問われるのです。
今回のテーマですが、もしかしたら読者の皆さんは、リーダーのみならず、「人として正しい」ことをするのは、「人として当たり前」のことじゃないかと思ったのではないかと思います。なぜ私がこのような当たり前のことを改めてご紹介するのかというと、まさに前述の「人は性善なれど弱し」で、思っているよりも、常に「人として正しい」ことをするのは難しいことなのです。一般の人たちでも、日常生活において、些細な嘘をついてしまったり、少し欲をかいてしまったりと、なかなか聖人君子のような振る舞いはできないものです。
21世紀になってからは、インターネットの発達により、情報伝達が飛躍的に速くなり、特にSNSの普及によって、個人それぞれが積極的に情報発信をするようになりました。そのため、「人として正しい」かどうかという価値観は、今まで以上に、多くの人々に見られるようになりました。「人として正しい」という道徳観や倫理観に基づいた価値基準は、さらに重要性を増しているのです。
多くの人々が期待するリーダーは、これはしてはいけないことだ、あれはこうすべきだと、明確に規範を示し、倫理を説くことができる、見識と常識を兼ね備えた優れた人物です。但し、本来ならば、「人として正しい」ことは「人として当たり前」のことであり、決して難しくはないはずです。改めて、子供の時に両親や先生などから教えられた、ごく当たり前の道徳心やシンプルな規範の意味を考え直し、それをきちんと遵守すればいいのです。リーダーが、一人でも多くのフォロワーを導いて、世のため人のため、夢や理想のために邁進するためには、「人として正しい」ことをしなければなりません。
「リーダーと考える経営の現場」
第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」
※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年4月16日公開の「リーダーと考える経営の現場・第6回 人として正しいことを」を転載したものです。
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
2013年3月にソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社前身の株式会社スーツ設立。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し上場会社の子会社化を実現。2022年12月に株式会社スーツを新設分割し当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。
執筆者 小松 裕介 | 2月 27, 2019 | CEO

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。
今回のテーマは、リーダーのあるべき行動様式である「あり方」に不可欠な「自責」という考え方をご紹介したいと思います。また、より理解を深めるため、「自責」の対義語である「他責」についても、併せてご紹介します。
「自責」とは、自分に責任があると考えることです。これに対して、「他責」とは、自分以外の人や状況に責任があると考えることです。
私は、リーダーの「あり方」において、「自責」という考え方が大事であることは、広く多くの社会人に理解されていると考えています。そのため、毎年4月になれば多くの新入社員が入社してきますが、初めて部下を持った先輩社員が、部下のミスを自分のミスと受け入れられずにいるところに、「部下のミスも先輩社員であるあなたのミスである」と上司に諭されるような場面が散見されているのではないかと思います。
とはいえ、前回ご紹介したとおり「人は性善なれど弱し」で、「人は弱し」の象徴的な事例だと思いますが、経営の現場では「他責」を見ることが多いです。何か問題が起きた場合に、その問題が、直接的か遠因かはさておき、自分に起因していて、自分の責任であると「自責」を認めることはなかなかできないものです。
以前、私は企業再生をしていましたので、様々な「他責」を見てきました。企業再生では、初期の段階で、幹部社員に対して、経営成績の悪化の原因をヒヤリングします。私が新しい投資家・株主から送り込まれた改革者であるということもあってか、幹部社員の口から出てくるのは「他責」のオンパレードです。
以下は、私が実際に見聞きしてきた「他責」です。まさに「人は弱し」で、ビックリするような言い訳も含め、「他責」のバリュエーションは様々です。
経営戦略が間違っていたから、経営が悪化した。経営者のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
営業部が売らないから、経営が悪化した。営業部のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
製造部が良い商品を作らないから、経営が悪化した。製造部のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
人事部が優秀な社員を採用しないから、経営が悪化した。人事部のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
他の事業が悪いから、他の部署が悪いから、経営が悪化した。
(だから、私は悪くない。)
取引先がしっかりとした仕事をしないから、経営が悪化した。取引先のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
景気が悪いから、経営が悪化した。景気のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
天候不順で、お客様が来ないから、経営が悪化した。天候のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
暦の並びが悪く、お客様が来ないから、経営が悪化した。暦のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
挙句の果てには・・・
部下が優秀でないから、経営が悪化した。部下のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
経営成績の悪化の大きな原因は、この「他責」が蔓延していることなのです。そのため、企業再生が進んでくると、「他責」から「自責」へ考え方が変わる人が多くなります。
リーダーとフォロワーの関係は面白いもので、リーダーシップが適切に発揮されていれば、全てのフォロワーが、リーダーと同じ心持ちで、全ての物事に「自責」で臨むようになるものです。
昨今よく大企業の不祥事が起こりますが、組織の末端にいるスタッフが問題を起こすのは、組織のトップであるリーダーが適切なリーダーシップを発揮していないからです。全てのスタッフに対して影響力を行使できていないということは、リーダーに力が足りないからです。リーダーは全てのことに責任があるのです。
リーダーは、いついかなるときも「自責」で物事に臨まなければなりません。そして、「自責」の先にあるものは「内省」です。「内省」とは自分の考えや行動などを深くかえりみて反省することです。何か問題が起きた場合に「自責」ではなく「他責」だと考えたら、「内省」することはできません。リーダーは「内省」しなければなりません。
リーダーシップとは組織のトップにだけに必要なものではありません。本来、リーダーシップとは、ありとあらゆる人が発揮すべきもので、リーダーシップに組織における立場は関係ないのです。そのため、この「自責と他責」という考え方も、全てのリーダーが理解すべき考え方です。
優れたリーダーは、組織の枠組みを超えて、広範に影響力を行使することができます。それは、取引先であったり、地域社会であったり、本来の組織におけるパワーが及ばないところであってもです。影響力が行使できる範囲の問題は全て、自分に責任があると「自責」の捉え方の対象を広げていくことができると、より優れたリーダーになることができます。全てのことを「他責」ではなく「自責」で捉える。言うは易く行うは難しかもしれませんが、リーダーに不可欠な考えです。
「リーダーと考える経営の現場」
第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」
※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年3月28日公開の「リーダーと考える経営の現場・第5回 自責と他責」を転載したものです。
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
2013年3月にソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社前身の株式会社スーツ設立。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し上場会社の子会社化を実現。2022年12月に株式会社スーツを新設分割し当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。
執筆者 小松 裕介 | 2月 26, 2019 | CEO

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。
今回のテーマは、リーダーがどのようにフォロワーや周囲の人々を捉えたらよいかで、一つの価値観として「人は性善なれど弱し」という考え方をご紹介したいと思います。
今後、経営の現場において、読者の皆さんがリーダーシップを発揮していくにあたり、フォロワーや周囲の人々をどのように捉えたらよいかという問題に直面すると思います。リーダーとは、暗闇の中、集団の先頭で、たいまつを持って、フォロワーを率いて進む存在です。そのため、自分たちの進んでいる方向が本当に正しいのか、フォロワーが本当に自分についてきてくれているのかなど、リーダーには常に自分の中の不安との闘いが生じます。そのときに多くのリーダーは、リーダーが抱える不安とフォロワーや周囲の人々に対する必要以上の過度な期待が原因で、この問題にぶつかります。
特に未熟なリーダーは、フォロワーや周囲の人々に対して、“複雑な想い”を抱くことが多いです。未熟なリーダーであったとしても、フォロワーや周囲の人々に対して、感謝の念すら抱かない人はそうはいません。しかし、それと同時に、なぜ自分は正しいのに一部の人々は理解してくれないのか、なぜ自分だけがみんなの犠牲となってこのような辛い想いをしなければならないのかなど、フォロワーや周囲の人々に対して勝手にリーダーである自分と同じような責任を背負わせ、彼らの責任を追及するかのようなネガティブな気持ちも併せて持ってしまう人が多いです。このネガティブな気持ちは、未熟なリーダーのフォロワーや周囲の人々に対する過度な期待から生じています。
「人は性善なれど弱し」とは、一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏が「性弱説」と表現した言葉です。全ての人は性善であるが、弱い存在であるという価値観です。一般的に、人は、心にゆとりがあって平常時であれば、周囲の人に怒鳴ったり、八つ当たりをしたりすることはありません。しかし、ミスが続いて自分に自信がなくなってしまったり、急な仕事が舞い込んで慌てふためいてしまったりすれば、周囲の人に怒鳴ったり、八つ当たりをしたり、「性善」ではなくなってしまうのです。
フォロワーや周囲の人々は、一般的で平均的な普通の人たちです。彼らは「人は性善なれど弱し」を体現した人々です。勝ち目の薄い戦いだったり、仕事の負荷が大きくかかったりすれば、彼らがリーダーをフォローしなくなってしまうのは当然ですし、致し方のないことなのです。それは決してリーダーのことやリーダーの目指す理想を嫌いになったからではなく、そのフォロワーが「弱い」から、リーダーについていけなくなったに過ぎません。
経営の現場では、リーダーからフォロワーが離れてしまった場合や、集団が動かなくなってしまった場合、リーダーとフォロワーや周囲の人々の間の「好き・嫌い」の話の場面によく出くわします。しかし、今回紹介する価値観は、単なる「好き・嫌い」の話ではなく、全ての人が性善であることを前提として、フォロワーや周囲の人々の「強い・弱い」に評価軸を置いているところに特徴があります。
私は、普通の人たちを「弱し」とするこの価値観は、相手を見下した評価するわけですので、傲慢な考え方だと考えていますが、未熟なリーダーにとっては、非常に有用な考え方だと捉えています。
前述のとおり、未熟なリーダーは、どうしてもフォロワーや周囲の人々に過度な期待をしてしまうものです。今、目の前で起きている事象の全てのことが自分に責任があるとは思えずに、他人にも責任の一端があるものだと考えてしまいがちです。こういったときに、「弱し」とフォロワーや周囲の人々のことを、自分よりも低く評価することで溜飲が下がるのが事実だと思います。
この普通の人たちの弱さを分かってあげる強さがリーダーには必要です。リーダーは、「性善であって、強い」存在でなければなりません。リーダーとは、普通の人たちの弱さを補える強さを持った存在だからこそ、フォロワーがついてくるに値するのです。リーダーがリーダー然とした振る舞いを身に着け、自分に自信を持ち始めるのも、フォロワーとの違いであるこの「強い・弱い」を意識してからだと思います。
とはいえ、本来は、リーダーも、「人は性善なれど弱し」を体現した普通の人たちです。そこを、世のため人のため、誰かのため、夢や理想のために「焼け火ばし」を持って我慢をし始められるようになれば、この普通の人も「性善であって、強い」存在のリーダーとなり、フォロワーが追従するようになるのです。
リーダーとは孤独な存在です。リーダーは、フォロワーには、「焼け火ばし」を持たせてはなりません。自分でフォロワーの分まで「焼け火ばし」を持たねばならないのです。だからこそ、リーダーなのです。しかしもう一方で、リーダーはこの「弱い」フォロワーを信じて集団を率いていかなければならないのです。ここにリーダーの難しさと醍醐味があるのです。
「リーダーと考える経営の現場」
第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」
※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年3月12日公開の「リーダーと考える経営の現場・第4回 人は性善なれど弱し」を転載したものです。
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
2013年3月にソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社前身の株式会社スーツ設立。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し上場会社の子会社化を実現。2022年12月に株式会社スーツを新設分割し当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。
執筆者 小松 裕介 | 2月 26, 2019 | CEO

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。
今回は、経営の現場において、特に深く考えずに使われることの多い、マネジメントとリーダーシップの違い、マネージャーとリーダーの違いについて記載します。両者を比較することが、一番、読者の皆さんの理解に役立つのではないかと思いますので、冒頭に比較をしたいと思います。
マネージャーは管理し、リーダーは変革する。
マネージャーは現状を受け入れ、リーダーは現状に挑戦する。
マネージャーは管理して人を動かし、リーダーは心に働きかけて人を動かす。
マネージャーは数字を追いかけ、リーダーは未来を目指す。
マネージャーは目先のことを考え、リーダーは長期的な視野を持つ。
マネージャーは組織を優先し、リーダーは人間を優先させる。
マネージャーは複雑さに対処し、リーダーは方向を示す。
マネージャーは正しく手続きを処理し、リーダーは正しいことをする。
マネジメント・スキルは人を管理するためのスキルです。これに対して、リーダーシップ・スキルは人を導くためのスキルです。なお、スキルと表現をした理由は、スキルである以上は、学びさえすれば、たとえ先天的な能力のように思われることの多いリーダーシップであったとしても、再現性のある科学的なアプローチで、誰でも後天的に身に着けることができます。
上記のように記載をしていくと、マネージャーよりも、リーダーのほうがカッコよく、正しく、重要なように思うかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。マネジメントもリーダーシップも、経営の現場において、ともに重要となるスキルですが、それぞれスキルが求められる場面が違うだけです。
むしろ、私の10年以上の経営経験では、経営の現場では、リーダーシップよりもマネジメントについて語られることのほうが多いように思います。理由の一つとしては、おそらく、組織において本来やるべきことがなされていない場合に、マネジメントの必要性が語られることが多いためだと思います。そのため、ビジネスシーンでは、リーダーシップよりもマネジメントこそ重要であると考えている方が多いかもしれません。
リーダーシップよりもマネジメントについて語られることのほうが多い理由の二つ目としては、そもそも、マネージャーとリーダーの人数の多寡もあると思います。MBAホルダーが増えて、経営学が一般化したおかげで、仕事を“まわしていく”マネジメント・スキルを持つマネージャーは増えましたが、仕事を“創っていく”リーダーシップ・スキルを持つリーダーはまだまだ不足しています。そのため、マネジメントについて耳にすることは増えましたが、まだまだリーダーシップについて語られることが少ないのだと思います。
特に昨今のマネジメント・スキルの一般化は著しく、経営の現場の「共通言語」として、日常業務において、経営学の専門用語が使われることも多くあるように思います。マネジメント・スキルの代表格としては、経営戦略、マーケティング、アカウンティング、オペレーションやファイナンスなどの経営学の知識が挙げられると思います。一方、リーダーシップ・スキルは、「やり方」ではなく「あり方」について、リーダーのあるべき行動様式に関する知識です。前者のほうが、読者の皆さんにとっても、馴染みがあるのではないでしょうか。
しかし一方、日本では、「失われた20年」を経て、特に強いリーダーシップの必要性が言われています。世の中が複雑化して、先行きが不透明となり、不安な要素が増えれば増えるほど、人々は、現状に挑戦し、変革し、心に働きかけて人を動かして、正しいことをして、未来を目指すリーダーを求めるのです。
キャリアアップとして、マネジメント・スキルを身に着けて優れたマネージャーになることも一つの選択肢ですが、リーダーシップ・スキルを身に着けて優れたリーダーとなることも一つの選択肢だと思います。リーダーが不足していると言われて久しいですので、リーダーとなるキャリアは、考え方によっては多くの人にチャンスがあると思います。
なかなかキャリア(経歴・職歴)という概念において、リーダーを目指すというキャリアを提示する人は少ないかもしれませんが、前述のとおり、社会的な要請でもありますので、ぜひとも一人でも多くの人に優れたリーダーを目指してもらいたいと思います。マネジメントと同じように、リーダーシップが一般化され、優れたマネージャーになりたいと思うように、優れたリーダーになりたいと思う人が増えると、さらにより良い世の中になるのではないかと思います。
「リーダーと考える経営の現場」
第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」
※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年2月14日公開の「リーダーと考える経営の現場・第3回 マネジメントとリーダーシップの違い」を転載したものです。
株式会社スーツ 代表取締役社長CEO
2013年3月にソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、東証スタンダード上場企業)の代表取締役社長に就任。7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社前身の株式会社スーツ設立。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師登録。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。2020年10月に大手YouTuberプロダクションの株式会社VAZの代表取締役社長に就任。月次黒字化を実現し上場会社の子会社化を実現。2022年12月に株式会社スーツを新設分割し当社設立と同時に代表取締役社長CEOに就任。