リーダーと考える経営の現場・第15回 リーダーシップの旅 後半

※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2019年2月25日公開の「リーダーと考える経営の現場・第15回 リーダーシップの旅 後半」 を転載したものです。

 

前回に引き続き、なぜ私が一人でも多くの方にリーダーになってもらいたいと思うようになったのか、私の「リーダーシップの旅」について、記載をしたいと思います。

リーダーと考える経営の現場(第14回 リーダーシップの旅 前半)

私は、新卒で就職した上場企業でキャリアをスタートし、当該上場企業で経営者となったため、いわゆる「サラリーマン経営者」でした。そのため、株式会社における「パワー」の根源である株式を多く保有しておりませんでした。しかも、当該上場企業の株式を不当に買い占める株主がいるなど、権力基盤は極めて不安定な状況でした。

このような状況下で、メンターのアドバイスから、組織の地位や権限など「パワー」は一切使わずに、リーダーシップだけで企業再生させることを目指すことになりました。

企業再生をしなければならない業績不振企業には特徴があります。それは幹部社員クラスで社内政治が横行するため、一般スタッフの多くは顧客軽視・社内偏重となってやり過ごすこと・動かないことが良い選択肢のように思えてしまうのです。

私が企業再生をしなければならない会社は、過去においては、長年の歴史から来るブランドと莫大な不動産を有しており事業基盤がしっかりしていたので、真正面から事業に取り組むよりも、社内政治をして、地元の大企業の幹部としての名誉ある地位と利益の配分を少しでも多く掠め取ったほうが理にかなっていると思わせるには十分でした。そのような企業体質の中で、バブル崩壊が起き、金融負債が過多となり、業績不振になっていました。

当初の私の企業再生プランは、当該企業はブランドと不動産が事業基盤で、顧客からすればサービス・オペレーションをするスタッフによる付加価値はごく僅かだったため、まずは、とにもかくにも、株主権を行使してでも、一切仕事をせずに社内政治ばかりしている役員を解任(手続きは辞任に追い込む)し、一般スタッフの目線を社内ではなくお客様に戻す必要があると思いました。その後、しっかりと全社一丸となって、経営戦略の策定やマネジメントシステムの再構築などをしたほうがよいと考えました。

合理的な企業再生プランだと思ったのですが、メンターからは反対をされました。理由は簡単です。「その社内政治ばかりしている役員は、一般スタッフの生活のことなど考えずに、赤字の会社の地位に汲々とするような人たちなのだから、向き合って、リーダーとして正しく導きなさい。」ということでした。

言われてみて「それもそうだなぁ。」と思いはするものの、放っておくと、当該役員も企業に残れるか・残れないかの瀬戸際ですから、死に物狂いで嫌がらせをしてきます。たまりかねて、メンターに対して、「なぜ『パワー』を持っているのに行使しないのですか。『パワー』を適切に行使して解任すれば、すぐにこの問題は解決するのではないですか。あなたも昔だったら『パワー』を行使したのではないですか?」と聞いたところ、「自分が若い時でも『パワー』は行使しないと思う。『パワー』を持っていて、なおかつ、人として正しいことをしていれば絶対に負けないから、その人たちと向き合いなさい。」と言われました。また、「『パワー』を行使すればした分だけ、リーダーとしての自分の価値が下がる。」とも言われました。

私が、マネジメントからリーダーシップへと価値観の転換が起きるまで、数年を要しました。

その途中でも、当該役員からは、会社で正式に機関決定したものを、裏で根回しされて嫌がらせされるなどがありました。相変わらず社内政治も横行していました。私も若かったので、不振企業で会社が生き残れるかの瀬戸際なのに、自己保身のために、会社のためにならない酷い行動をとる幹部もいるものだと心底がっかりしました。

私の中で霧が晴れた瞬間がありました。私が、メンターに対して、当該役員の社内政治の酷さを話したところ、メンターから「君は、その彼と同じ程度の人間なのか?」と言われました。この何気ない一言が私に「気づき」を与えてくれました。「あぁなんだ。この役員は弱い人だから邪魔をしていたんだ。本来は、対等な関係ではなく、守ってあげなければならない弱い人なんだ。」と思った瞬間に、私が行ってきた企業再生の進め方の間違いに気づいたのです。

その後、企業再生の成果が出て、徐々に会社の業績が良くなってきたある日、当該役員から、実は改革について自分が何をやっていいか分からないため、不安に駆られており、改革に横やりを入れていたと聞きました。一般的なサラリーマンと同じように、彼もまた「善なれど弱い」人だったのです。

メンターからリーダーシップを教えてもらったおかげで、私は人間的に成長することができたと感謝しています。リーダーシップに興味をもって、様々なリーダーシップに関する本をたくさん読んだのもこのときです。

以前もご紹介しましたが、メンターからは、「本来ならば利害関係の一切生じない人物を、リーダーシップを発揮して口説き落として、会社のために協力させなさい。」や「人生どこで何があるか分からないのだから、敵と思っている人を愛しなさい。」などと教えを受けました。後者については、お正月で、新年の挨拶に行ったときに言われ、年明け早々難しい宿題をもらったものだと思ったものです。

企業再生においても、マネジメントだけでなく、リーダーシップを意識することで、一般スタッフもより自律的に動くようになり活気が生まれました。リーダーシップをもって接することで、多くの人と繋がることができ、奇跡のような出来事が続いて、社会に溶け込むような一体感・連帯感を覚えるようにもなりました。これらの経験を通じて、すっかりリーダーシップの面白さにはまってしまいました。今では情熱をもって人を動かすことの醍醐味を多くの人に知ってもらいたいと思っています。

私の「リーダーシップの旅」は、30代にして、本当にスタートしたと思っています。出会った人を、一人でも多くのリーダーに育てたい。私の旅はまだまだ続きます。

 

 

「リーダーと考える経営の現場」

第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど、弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」

 

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

リーダーと考える経営の現場・第14回 リーダーシップの旅 前半

※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2019年1月29日公開の「リーダーと考える経営の現場・第14回 リーダーシップの旅 前半」 を転載したものです。

 

2019年はじめての「リーダーと考える経営の現場」では、コーヒー・ブレイクを設けて、なぜ私が一人でも多くの方にリーダーになってもらいたいと思うようになったのか、私の「リーダーシップの旅」について、前半・後半の2回にわたり記載をしたいと思います。

私は今の日本では非常に珍しいキャリアを歩んでいます。現在37歳で、会社経営の経験は約15年。その大半が「サラリーマン経営者」としてのキャリアです。

大学卒業後、新卒で就職した上場企業で、社会人2年目には社長室長となって、「サラリーマン経営者」として、買収先や投資先など複数の会社経営に関与しました。その過程で、伊豆シャボテン公園グループといった老舗レジャー施設の企業再生をしたり、当該上場企業の代表取締役社長を務めたりしました。

現在は、今までの会社経営の経験を活かし、「プロ経営者」として、株式会社スーツという時価総額100億円以下の中堅企業・中小企業・小規模事業者など中小企業等に対して経営支援をする、いわゆる経営コンサルティング会社を経営しています。

私は若い頃からメンター(仕事上または人生の指導者・助言者)に恵まれてきており、学生時代に出会ったメンターの方は、優秀な社会人になるための勉強する癖を身につけさせてくれたり、経営学修士(MBA)で習うような経営戦略、マーケティング、アカウンティング、オペレーションやファイナンスなどの経営学の知識を教えてくれたりしました。社会人になってから出会ったメンターの方は、金融機関で長らくトップ営業マンだった方で、組織で生きるとはどういうことか、お金を稼ぐとはどういうことかなど社会の厳しさを教えてくれました。

20代前半の頃の私は、これらのメンターの方々から教えていただいた経験、知識、会社という組織の論理と資本主義社会の論理を踏まえ、会社から与えられた組織の地位や権限など「パワー」を用いて、常に最短距離で、効率よく合理的に売上・利益を増大させて、経営を推し進めることが仕事だと考えていました。

そのため、例えばリーマン・ショック後に手掛けたいくつかの企業再生案件では、赤字も酷く資金繰りも厳しい会社の多くの従業員の雇用を守るために、やむなく一部のスタッフについては人員整理をしましたが、それこそ「テキパキ」と対応し、会社の業績を回復させました。

当時の私は、経営者とはマネジメント(経営管理)をする人で、優れた経営者とは、どのような状況下でも、現状を受け入れ、複雑さに対処し、組織を優先し、数字を追いかけ、管理して人を動かし、正しく手続きを処理できる管理者だと信じていました。

この経営スタイルやマネジメント方法で、私が経営に関与した多くの会社の業績は良くなりましたし、その結果について会社の幹部クラスや先輩方も喜んでくれていました。

しかし、20代半ばの頃に、当時の上司を通じて、たまたまご縁をいただいた方から、ある日突然、「君は若いから、君の人間としての器を広げて、人間力を鍛えてあげよう。優れた経営者になるために、マネジメントだけではなく、リーダーシップを学びなさい。」と言われました。

当時、私は、「経営者=リーダー」だと捉えていたので、「マネジメント能力が高い=リーダーシップがある」と勘違いをしていましたし、もっと言うと、子どもの時から、リーダーシップという言葉は見聞きをしてきたものの、リーダーシップがどういうものなのかを考えたことすらありませんでしたので、いきなり「リーダーシップを学べ」と言われてもピンときませんでした。

数日後、その方から、続けて「組織の地位や権限など『パワー』は一切使わずに、リーダーシップだけで企業再生させなさい。」と言われました。

前述のとおり、当時、私は、会社から与えられた組織の地位や権限など「パワー」を用いて効率よく合理的にマネジメントすることが正しいと信じていましたので、これについても何を言っているかさっぱり理解できませんでした。むしろ企業再生案件を取り巻く、厳しい資金繰りなどの現実の問題を全く理解していない無理難題のように思ったものです。

さらに、その後、その方から「私は、政治家として、リーダーシップとインテリジェンスを実践してきたから、それを教えてやる。」とも言われました。その方は、過去に大臣を務めた経験のある方でした。

今ではその方との出会いを心から感謝しているのですが、当時は、このような経歴の方と長く交流することになり、それこそ私の新たなメンターになるとは想像もしていませんでした。

これが私の経営者人生における「リーダーシップ」との出会いでした。

 

 

「リーダーと考える経営の現場」

第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど、弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」

 

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

リーダーと考える経営の現場・第13回 Lead with love

※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年12月29日公開の「リーダーと考える経営の現場・第13回 Lead with love」 を転載したものです。

 

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。今まで12回にわたり、この基本となるリーダーシップの考え方について記載をしてまいりましたが、本稿で一区切りとなります。

最後のテーマは「Lead with love」です。愛とともに導く、愛をもって導くというリーダーシップの「あり方」についてご紹介したいと思います。

この「Lead with love」ですが、今まで本連載を読んできた読者の皆さんには、既に十分にご理解いただけているのではないかと思います。今までも、近い考え方として、第9回ではリーダーはフォロワーから愛され畏れられる存在であること、第10回ではリーダーとフォロワーの関係は親子のような関係であることを紹介してきました。

リーダーは、世のため人のため、組織のため、そして、フォロワー自身のために、フォロワーに対して、正しいこと・厳しいことを言って、フォロワーを導いていかねばなりません。但し、そのとき、そこに愛情がなければなりませんし、もしそこに愛情がなければ中長期的には決して上手くいかないでしょう。

多くの場合、リーダーの目標は、フォロワーにとっての目標でもあります。そのため、多くのリーダーは、少しぐらいの困難や苦難があったとしても、フォロワーは乗り越えなければならないと考えがちです。しかし、この考えが大きな間違いであることは以前にも記載してきたとおりです。なぜなら、普通の人は「人は性善なれど、弱し」だからです。少しの困難や苦難を前に、簡単に物事は進まなくなってしまうものです。

リーダーは、この「弱い」フォロワーを導き動かすために、たっぷりの愛情を用意しなければなりません。人は愛情を感じられれば、自己肯定感が高まり、安心感を得ることができます。そして、人は安心できれば、前を向いて、次のことにチャレンジすることができるのです。サラリーマンの安心とは、組織の中での居場所の確保かもしれませんし、金銭的な保証かもしれません。リーダーからの愛情の形の一つは、例えフォロワーが失敗をしたとしても、引き続きフォロワーの存在を認め続け支援し続けるということかもしれません。

フォロワーにリーダーの愛情が伝わっていたとしても、それでも「弱さ」に負けてしまう場合があります。私が経験してきた上手くいかなかった事例の多くでも、フォロワーの多くは、リーダーが求めていることを理解しており、そこに愛情があることも十分に理解していたように思います。しかし、自分の「弱さ」に負けて、自分の「弱さ」を認められず、他責になってしまったり、逃げてしまったりという人をたくさん見てきたように思います。

現在、私は、今までの会社経営の経験を活かし「プロ経営者」として、様々な会社の経営支援をしています。その中で、クライアント企業の経営陣に対して、フォロワーであるスタッフにもっと興味を持ちましょうということをアドバイスします。人を動かすうえで、その人に無関心ではいけません。その人の人となりや生き方、人生にも興味をもって、愛情をもって導けば、その人は必ず動いてくれるものです。

リーダーシップの要諦とは、この「Lead with love」だと思います。

日々忙しく流れていく日常生活において、リーダーが、一人ひとりのフォロワーのことを真剣に考えて、愛情をもって接することは、大変難しいことです。このことは多くのサラリーマンの皆さんにもご理解いただけるのではないでしょうか。中長期的な目線で本質的で大事なことではありますが、どうしても短期的な目線ではおざなりになってしまいがちなことなのです。また、特にテクノロジーが職場の多くに入り込むようになって、多くのマネージャーがこの極めて非効率で・非合理な要素を軽んじているように思います。

リーダーがフォロワーに求める正しいことの多くは、フォロワーにとって厳しいことであることが多いです。リーダーから正しいことを求められた際に、そこに愛情があれば、リーダーに導かれて、フォロワーの多くは、少なくとも正しいことを実現できるように努力をするでしょう。

フォロワーは、このリーダーの愛情に非常に敏感に反応します。フォロワーの多くは、リーダーと違って、目標が達成されることのみを望むのではなく、多くの場合は、フォロワーである自分がリーダーからの愛情を受けて、帰属意識や自己肯定感とともに、目標が達成されることを望んでいるのです。

全てのリーダーを目指す人たちに「Lead with love」という格言を送りたいと思います。もしリーダーが心にゆとりをなくしたとき、自信をなくしたときは、この言葉を忘れずに、愛情をもってフォロワーを導いてもらいたいと思います。必ず多くのフォロワーを動かすことができ、リーダーを本当のリーダーにしてくれることでしょう。

次回以降は、経営の現場でよく起きている具体的な事例を使って、リーダーが、リーダーシップの考え方に基づいて、どのように考え、どのようなアクションをすべきかを一緒に考えていきたいと思います。

 

 

「リーダーと考える経営の現場」

第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど、弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」

 

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

リーダーと考える経営の現場・第12回 奇跡を起こし、神となれ

※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年10月23日公開の「リーダーと考える経営の現場・第12回 奇跡を起こし、神となれ」 を転載したものです。

 

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。

今回のテーマは、リーダーには、時に、フォロワーが奇跡だと思うようなことを成し遂げる神がかった力が求められるということをご紹介したいと思います。多くのリーダーへの叱咤激励の意味も込めて、本稿のタイトルの一部には「神となれ」とまで記載しました。なお、読者の皆さんの中でも不見識に思う方もいるかもしれませんが、ここでは、人智を超えた力や存在という意味で、神という表現を使っています。

「人を動かす」際に、“勝ち戦”であることがフォロワーに予見できることは大事な要素です。人は誰しも、わざわざ“負け戦”に関わりたいとは思わないものです。特にリーダーとフォロワーの関係期間が短い場合などには、特大ホームランまでは打たないにしても、小さな成功を積み重ねるというヒットを打ち続けることが信頼構築に繋がります。野球の名選手でも“三割バッター”が関の山で、ヒットを何打席にもわたって打ち続けることは奇跡なのです。しかし、リーダーは、時に、フォロワーが奇跡だと思うようなことをやらなければなりません。それは、フォロワーは心の奥底では自分たちのリーダーが奇跡を起こすことを望んでいるからです。

私が20代半ばでまだ駆け出し経営者だった頃に、過去に大臣を務めた経験のあるメンターの方から、「組織の地位や権限など『パワー』は一切使わずに、リーダーシップだけで企業再生させなさい。」、「本来ならば利害関係の一切生じない人物を、リーダーシップを発揮して口説き落として、会社のために協力させなさい。」や「人生どこで何があるか分からないのだから、敵と思っている人を愛しなさい。」などと教えを受けました。

当初、私は、年齢も若く未熟だったからか、これらの教えについて、現実の問題を全く理解していない無理難題のように思ったものです。しかし、私のリーダーシップへの理解が深くなるにつれて、この無理難題の本当の価値が分かってきたのです。

これらの無理難題は、現実の問題を無視した机上の空論ではまさに正論です。本来はリーダーが真正面から自分と向き合って、取り組むべき課題なのです。しかし、多くのリーダーは、様々な現実の問題を言い訳にして、自分の可能性、フォロワーの存在や可能性を信頼せずに、現実世界と折り合いをつけてしまうのです。

例えば、リーダーシップだけで企業再生させるということは、多くの経営者からは非効率で信じられないと言われると思います。一般的には、企業再生に限らず、株式会社の良いところは、一人一票が原則の民主主義社会と違って、株式のシェア(持ち分)に基づいて株主が圧倒的な「パワー」を手にすることができ、その株主の委任を受けた経営者が日常において迅速に意思決定できることです。そのため、そもそも、株式会社という制度において、組織の地位や権限など「パワー」を行使することは想定内のことであり、何ら悪いことではありません。夢や共感などのリーダーシップだけで企業再生させるということは、リーダーがフォロワーとの人間関係を構築し、赤字などで停滞していた組織によってモチベーションが低下しているフォロワーに自信をつけさせ、前を向かせて、一歩ずつ歩ませ、会社の業績を回復させることです。これを資金繰りが厳しかったり、取引先からの信用が低下していたりするなどの状況下で、短期間で成し遂げなければなりません。この大変さは、読者の皆さんの自身の会社に置き換えてもらうと、いかに奇跡的なことかご理解いただけるのではないかと思います。一般的に「パワー」を行使しない会社組織など、まず存在しないのです。

「本来ならば利害関係の一切生じない人物を、リーダーシップを発揮して口説き落として、会社のために協力させなさい。」ということも、相手のメリットを一切考えない、ビジネスの世界ではまず考えられない非合理的なことです。また、「人生どこで何があるか分からないのだから、敵と思っている人を愛しなさい。」ということも、道徳として素晴らしいですが、聖人君主のような考え方で、現実世界では否定されることも多いでしょう。

しかし、しっかりとこれらの問題と向き合い、実現すると、リーダーとしても人格を磨くことができ、根源的な自信になります。また、フォロワーからの求心力も圧倒的に高まるのです。極端な話、現実から浮世離れしていればしているほど、理不尽であれば理不尽なほど、実現した場合に、リーダーは力を手にすることができるのです。前述の「敵を愛する」のように神がかった人間性をフォロワーに見せることができれば、多くのフォロワーに対して圧倒的な説得力を手にすることになります。

歴史上の著名なリーダーたちに限らず、大会社の創業者であったり、大物政治家であったりの多くには、伝説的なエピソードがあります。リーダーが「人を動かす」ためには、フォロワーを熱狂させるような奇跡が必要なのです。また、多くのフォロワーは、自分の心の支えとして、リーダーが起こす奇跡を求めているのです。

とはいえ、私たちはどんなに頑張っても、ひっくり返っても、神ではなく、単なる人間です。残念ながら、海を割ることもできませんし、人々を思い通りに動かすこともできません。それでも、リーダーは、フォロワーの期待に応えるために、自己研鑽して、奇跡を起こすことが期待されているのです。

 

 

「リーダーと考える経営の現場」

第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど、弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」

 

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

リーダーと考える経営の現場・第11回 子どものように叱る

※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年8月22日公開の「リーダーと考える経営の現場・第11回 子どものように叱る」 を転載したものです。

 

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。

今回のテーマは、優れたリーダーは自分の子どものようにフォロワーを叱るということをご紹介したいと思います。

私が20代半ばで、まだ駆け出し経営者だった頃から、どのようにフォロワーを叱ればいいかという話になった時には、いつもこの「自分の子どものように」という比喩を使っていました。当時の私には自分の子どもはいませんでしたが、もちろん私自身も親に大事に育てられ“子どもの経験”が長らくあるものですから、親子の関係に似ているのではないかと思って話をしたわけです。そうしたら不思議と話をした全ての人から、この比喩に対して、共感をいただいたものです。親になった今の私には、この例え話の正しさが深く理解できますが、それ以上に難しさもよく分かるようになりました。

この「リーダーは自分の子どものようにフォロワーを叱る」という考え方ですが、2つに大別して説明することができます。まず、リーダーとフォロワーが親子のような関係を築けるかどうかという点と、次に、リーダーがフォロワーを「怒る」ではなく、しっかりと「叱る」ことができるかどうかという点です。

第9回で、優れたリーダーは、フォロワーから愛され畏(おそ)れられる存在であるということを紹介し、その中で「愛されること」は子供が母親に対して抱くような愛情たっぷりな感情、また、「畏れられること」は子供が父親に対して抱くような尊敬と畏れの入り混じった感情と紹介しました。

また、第10回で、リーダーとフォロワーの関係は、親子のような関係と例えられることが多いことを紹介し、リーダーシップの世界では、関係性において、リーダーは親、フォロワーは子どもというように捉えられることを紹介しました。

それでは、経営の現場において、実際に、リーダーとフォロワーが親子のような関係を築けている事例はどれだけあるでしょうか?親子のような関係を築くには、お互いに相手に対する愛情や情熱がなければできません。明確に他人に関与する意思・責任がなければ、このような極めて近しい関係は築けないものです。多くのリーダーとフォロワーの間にこのような関係がないとは言わないですが、やはり滅多にないと言わざるを得ないと思います。

それは、リーダーが一人であることに対して、フォロワーが多数であるということも原因の一つだと思います。また、そもそも、昨今の職場の人間関係は、契約関係などでしっかりと定義して、お互い適切な距離感を保つべきという大きな潮流もあるかもしれません。リーダーも、フォロワーも、お互いに実際の親子と同じような愛情や情熱を持つことはなかなか難しいことですが、人生は一度きりですので、ぜひともそのような関係性を求めてもらいたいと思います。

次に、「怒る」ではなく、しっかりと「叱る」ことについて記載します。「怒る」と「叱る」の違いからご紹介したいと思います。「怒る」とは怒り手の感情を外に爆発させることをいいます。これに対して、「叱る」とは相手により良い方法を教示することをいいます。イライラした感情をそのままぶつける「怒る」と、相手の成長を考えて「叱る」のでは全く違います。

リーダーが、フォロワーを大事に思っていて、成長させるように導かなければならないと考えていれば、まず自分の感情に任せて「怒る」ことはありません。「叱る」という行動の出発点は、決して自分ではなく、相手の立場を尊重して行う行動です。

経営の現場において、しっかりと「叱る」ことも難しいことの一つです。ただ感情に任せて「怒る」ようなリーダーは論外ですが、案外しっかりと「叱る」ことも難しいのです。相手のことを考えて「叱る」ことが難しいのは、この「叱る」という行為が、両者の近しく正しい関係性の上に立脚した行為だからです。

もしリーダーが、フォロワーのことをよく考えて叱っていたとしても、そのフォロワーのためにという想いが正しく伝わっていなければ、単なる注意に留まってしまう場合もあります。本当の親子と違って、多くの場合、リーダーとフォロワーには距離がありますので、正しく「叱る」ことは難しいものです(もっと正確に言うと、本当の親子であっても、正しく「叱る」ことは難しいものです。)。

前述のとおり、昨今の流れとしては、働き方の多様化に伴って、権利関係や業務対価も明確になって、ある意味“ドライ”ですが、透明性があって、便利な世の中が到来しようとしていると思います。

私としては、就労環境やテクノロジーの観点からは、この流れを否定するものではありません。しかし、それとは別の論点で、一人でも多くの人々が、リーダーとフォロワーの間で親子のような濃密な人間関係を築いて、リーダーが自分の子どものようにフォロワーを叱るような愛情や情熱を持っていれば、世の中がより一歩前進するのではないかと思います。

 

 

「リーダーと考える経営の現場」

第1回 「はじめに」
第2回 「リーダーシップに立場は関係ない」
第3回 「マネジメントとリーダーシップの違い」
第4回 「人は性善なれど、弱し」
第5回 「自責と他責」
第6回 「人として正しいことを」
第7回 「リーダーは自然体」
第8回 「サーバント・リーダーシップ」
第9回 「愛され畏れられる存在」
第10回 「傲慢な存在」
第11回 「子どものように叱る」
第12回 「奇跡を起こし、神となれ」
第13回 「Lead with love」
第14回 「リーダーシップの旅 前半」
第15回 「リーダーシップの旅 後半」

 

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に当社設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。