経営者の役割とは?【図解で解説】5つの仕事と管理職との違い・必要な資質

経営者の役割とは、会社の進む方向を決め、ヒト・モノ・カネ・情報を配分し、組織と人を動かして、成果と責任を引き受けること。

社長や代表取締役という肩書きがあっても、日々の業務に追われてこの役割を果たせていない経営者は少なくありません。

本記事では、経営者の役割を5つに整理し、管理職との違い、会社法上の責任、ドラッカーやミンツバーグなど経営学の考え方、必要な資質、そして役割を実務で果たすための仕組みづくりまで、順を追って解説します。

目次

目次

経営者とは?意味・管理職との違い・法律上の立場

経営者・経営層・管理職の違いを、責任の範囲と時間軸で整理した図
経営者・経営層・管理職は「見る範囲」と「時間軸」が違う

経営者とは、会社や組織の運営について最終的な意思決定権を持ち、その結果に責任を負う人のこと。

まずは言葉の意味を押さえ、混同されやすい経営層・管理職との違いと、法律から見た立場を整理しましょう。

経営者の意味:最終的に「決めて、責任を負う」人

経営者は法律上の用語ではなく、会社の方向を決めて結果に責任を持つ立場の人を指す一般的な呼び方です。

一般に経営者と呼ばれるのは、株式会社の代表取締役社長、取締役、オーナー社長、個人事業主など。

肩書きは会社によってさまざまですが、共通するのは「会社全体に関わる最終判断を下し、その結果に責任を負う」という点です。

中小企業基本法が定める中小企業の範囲に入る会社では、経営者が株主であり、営業責任者であり、人事責任者でもあるという一人何役の状態も珍しくありません。

だからこそ、自分が担っている役割を整理し、経営者にしかできない仕事に時間を割けているかを確かめることが大切です。

経営者・経営層・管理職の違い

経営者は会社全体と長期を、管理職は担当部署と目の前の目標を見る、という「範囲」と「時間軸」の違いがあります。

経営層は、経営者を含む取締役や執行役員など、会社の経営判断に関わる人たちの集団を指すことが一般的。

経営者はその中で最終的な意思決定をする人、管理職は経営層が決めた方針を自部署で実行し、部下を通じて成果を出す人、と整理するとわかりやすくなります。

経営者が「何をやるか」を決め、管理職が「どうやるか」を担う、という役割分担が基本です。

この線引きが曖昧になると、社長が現場の細かな判断まで抱え込み、管理職は指示待ちになる、という状態に陥ってしまうため注意しましょう。

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観点経営者経営層(役員)管理職
見る範囲会社全体会社全体+担当領域担当部署・チーム
時間軸3〜10年先1〜3年先今期・今月
主な仕事方向を決める・資源配分・最終責任経営判断への参画・担当領域の統括方針の実行・部下の育成・進捗管理
決める内容何をやるか/やめるかどの順でやるかどうやるか
責任の相手株主・金融機関・社会・社員経営者・株主経営層

法律から見た経営者の立場と責任

株式会社の取締役は会社と委任の関係にあり、善管注意義務・忠実義務を負うと会社法で定められています。

会社法では、会社と役員の関係は委任に関する規定に従うとされ(第330条)、民法の委任の規定により、取締役は会社に対して善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)を負います。

さらに、法令・定款・株主総会の決議を守り、会社のために忠実に職務を行う義務(忠実義務、会社法第355条)も課されています。

任務を怠って会社に損害を与えた場合は会社への賠償責任(第423条)が、職務に悪意や重大な過失があった場合は第三者への賠償責任(第429条)が生じえます。

経営者の責任は、心構えではなく法的な義務として定められているのです。

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根拠内容経営者にとっての意味
会社法 第330条・民法 第644条会社と役員は委任関係。善管注意義務を負う専門家として通常求められる注意を払って経営する
会社法 第355条忠実義務自分の利益より会社の利益を優先する
会社法 第349条代表取締役は会社の業務に関する一切の行為をする権限を持つ会社の顔として契約・対外行為の最終責任を負う
会社法 第423条・第429条任務懈怠による会社・第三者への損害賠償責任判断の誤りや監督の怠りに個人責任が生じうる
労働契約法 第5条使用者の安全配慮義務社員が安全に働ける環境を整える責任がある

上場企業では、日本取引所グループ『コーポレートガバナンス・コード』が取締役会の役割や経営陣の説明責任を示しています。中小企業でも、その考え方は経営の点検に役立ちます。

経営者の役割は大きく5つ

経営者の5つの役割(方向を決める・資源配分・組織づくり・人を動かす・責任を引き受ける)の全体図
経営者の5つの役割は「決める→配る→つくる→動かす→引き受ける」の流れでつながる

経営者の役割は、①方向を決める ②資源を配分する ③組織をつくる ④人を動かし育てる ⑤成果と責任を引き受けるの5つに整理できます。

これらはバラバラの仕事ではなく、方向を決めるところから始まり、結果に責任を持つところで一巡する一連の流れです。

ひとつずつ、意味・よくある誤解・具体例・セルフチェックの順に見ていきましょう。

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役割ひと言でいうと放置するとどうなるか
① 方向を決めるどこへ向かい、何をやめるかを決める部署ごとに正解がばらばらになる
② 資源を配分するヒト・モノ・カネ・情報の振り向け先を決める惰性の事業に資源が残り続ける
③ 組織をつくる役割と決裁の範囲を決める社長の判断待ちで仕事が止まる
④ 人を動かし育てる採用・育成・評価・対話の仕組みを整える人が定着せず、育たない
⑤ 責任を引き受ける結果とリスクに最終責任を持ち、説明する信頼を失い、資金や人が離れる

役割1:会社の進む方向を決める(ビジョン・経営方針)

経営者の第一の役割は、会社が「どこへ向かうのか」「何をして何をしないのか」を決め、言葉にして示すことです。

経営者の役割1「会社の進む方向を決める(ビジョン・経営方針)」の解説図

ビジョン(目指す姿)・経営方針・中期の事業計画は、社員が日々の判断に迷ったときの拠り所になります。

現場の一人ひとりは自分の担当範囲で最善を尽くしますが、事業の選択と集中、撤退の判断のような全社をまたぐ決定は、経営者にしかできません。

方向を決めるとは、立派な理念を額に飾ることではありません。

「今期はこの顧客層に絞る」「この事業は来期で縮小する」と、優先順位を具体的な言葉にし、数字の目標と結びつけて社内へ繰り返し伝えることです。

方針が曖昧なままだと、各部署はそれぞれの正解で動き、会社全体としての力が分散してしまいます。

誤解されやすい点:ビジョンは一度掲げれば浸透するものではありません。
会議や評価の場で何度も同じ言葉で語り、判断の根拠として使い続けて初めて社員に届きます。

具体例:「地域の中堅製造業に絞って深く支援する」と決めた会社は、大手向けの新規開拓を止め、営業と開発の人員をその顧客層に寄せる判断ができるようになります。

セルフチェック
  • 自社が目指す姿を1〜2文で言える
  • 今期「やらないこと」を決めている
  • 方針と数字目標がつながっている

役割2:経営資源を配分する(ヒト・モノ・カネ・情報)

決めた方向に向けて、限られたヒト・モノ・カネ・情報をどこにどれだけ振り向けるかを決めるのが経営者の仕事です。

経営者の役割2「経営資源を配分する(ヒト・モノ・カネ・情報)」の解説図

ヒト・モノ・カネ・情報などの資源は常に限りがあるもの。

だからこそ、資金調達や投資、採用人数、設備、システム投資の配分を決め、その結果に責任を持つことが経営者に求められます。

また中小企業では、資金繰りの把握と金融機関との関係づくりも経営者自身が担うことがほとんどです。

配分の失敗は、すぐには表に出ません。

伸びている事業に人を足さず、惰性で続けている事業に予算を残すと、数年後に差となって現れます。

月次の試算表やキャッシュフローを経営者自身が読み、「どこにお金と時間が流れているか」を把握しておくことが、正しい配分の前提です。

誤解されやすい点:資源配分は「経理や財務担当に任せる仕事」ではありません。
数字の集計は任せられても、どこに投じるかという判断は経営者が下すものです。

具体例:人手不足の中で、売上の大半を生む主力サービスの担当を増員し、利益の出ていない受託案件の受注を絞る、といった判断が資源配分です。

セルフチェック
  • 月次の損益と資金繰りを自分で読める
  • 投資の優先順位を説明できる
  • 惰性で続く事業・業務を見直している

役割3:組織をつくる(組織図・業務分掌・職務権限)

誰が何を担い、誰がどこまで決めてよいのかを定め、経営者がいなくても仕事が進む「組織」をつくることも重要な役割です。

経営者の役割3「組織をつくる(組織図・業務分掌・職務権限)」の解説図

社員が数名のうちは、社長がすべてを把握して指示を出せば回ります。

しかし人数が増えると、役割分担と決裁の範囲が曖昧なままでは、仕事の重複や抜け漏れ、判断待ちの渋滞が起きます。

組織図で指揮系統を示し、業務分掌で部署の担当範囲を、職務権限で決裁の範囲を明文化するのが、組織づくりの基本です。

組織づくりは、経営者が自分の仕事を手放すための仕組みでもあります。

権限を委ねる範囲が決まっていれば、現場は都度確認しなくても動けますし、経営者は本来の役割である方向づけや資源配分に時間を使えます。

逆に、すべての判断が社長に集まる会社は、社長の処理能力が会社の成長の上限になってしまいます。

誤解されやすい点:組織図をつくれば組織ができるわけではありません。
担当範囲と決裁権限まで定め、実際にその通り運用して初めて機能します。

具体例:「50万円未満の発注は部門長決裁」と職務権限で定めるだけで、社長の承認待ちで止まっていた案件が現場で前に進むようになります。

セルフチェック
  • 最新の組織図がある
  • 部署ごとの担当範囲が文書になっている
  • 決裁の範囲を金額や内容で決めている

役割4:人を動かし育てる(採用・育成・評価・対話)

組織の成果は人がつくるもの。
採用・育成・評価の仕組みを整え、社員が意欲を持って力を発揮できる環境を整えるのも経営者の役割です。

経営者の役割4「人を動かし育てる(採用・育成・評価・対話)」の解説図

どんな人を採用し、どう育て、何をもって評価するか。

これは会社の価値観そのものであり、経営者が方針を示すべき領域です。

加えて、使用者には労働契約法で社員の安全に配慮する義務も定められており、長時間労働やハラスメントのない職場をつくることも経営者の責任に含まれます。

人を動かすうえで欠かせないのが、社内のコミュニケーションの設計。

経営者の考えが現場に届き、現場の状況が経営者に上がってくる流れがなければ、方針も配分も空回りします。

定例会議や報告の型を整え、社員が困りごとを早めに言える状態をつくることも、人を動かす仕事の一部です。

誤解されやすい点:「人を大切にする」は待遇を上げることだけではありません。
役割と期待を明確に伝え、成果を正しく評価することが、社員の納得感と定着につながります。

具体例:評価項目に「チームの仕事を見える化して共有した」を加えれば、個人プレーより情報共有が評価されるようになり、仕組みで人の行動を変えられます。

セルフチェック
  • 求める人物像を言語化している
  • 評価の基準を社員が知っている
  • 現場の声が上がってくる場がある

役割5:成果への責任を引き受ける(業績・リスク・説明責任)

経営者は、業績の結果とリスクに対する最終責任を負い、株主・取引先・金融機関・社員などの関係者に説明する役割を担います。

経営者の役割5「成果と責任を引き受ける(業績・リスク・説明責任)」の解説図

会社法上、取締役は会社に対して善管注意義務と忠実義務を負い、任務を怠って会社に損害を与えれば賠償責任を問われます。

中小企業では、金融機関からの借入に経営者自身が個人保証を求められるケースも少なくありません。

経営者の「責任」は抽象的な心構えではなく、法的にも経済的にも重いもの。

責任を引き受けるとは、問題が起きた後に辞任することだけではありません。

リスクを事前に洗い出して手を打ち、うまくいかなかったときは原因を説明し、立て直しの道筋を示すことです。

そして最後の責任として、次の経営者に会社を引き継ぐ準備をすること、つまり事業承継も経営者の役割に含まれます。

誤解されやすい点:「責任を取る=辞める」と考えがちですが、本来求められるのは「責任を果たす」こと。結果を説明し、改善を実行するところまでが責任です。

具体例:主要取引先の倒産リスクに備えて取引先を分散し、四半期ごとに金融機関へ業績と見通しを報告する、といった行動が責任を果たす経営です。

セルフチェック
  • 主なリスクを一覧にしている
  • 業績を関係者へ定期的に説明している
  • 後継者や引き継ぎの方針を考えている

経営学者が示す経営者の役割(ドラッカー・バーナード・ミンツバーグ)

ドラッカー・バーナード・ミンツバーグの経営者の役割の考え方を比較した図
3人の経営学者は、経営者の役割を異なる角度から捉えている

経営者の役割は、経営学の世界で長く研究されてきたテーマです。

代表的な3人の考え方を知ると、自分の仕事を客観的に点検する物差しが手に入ります。

ここでは原典の考え方を、実務に引き寄せて紹介します。

ドラッカー:マネジメントの3つの役割

ドラッカーは、マネジメントには「組織の使命を果たす」「仕事を生産的にし働く人に成果をあげさせる」「社会的責任を果たす」の3つの役割があるとしました。

ピーター・F・ドラッカーは、『マネジメント【エッセンシャル版】』などの著作で、マネジメント(経営者・経営陣)の役割を3つに整理しています。

1つ目は、自らの組織に特有の目的と使命を果たすこと。

2つ目は、仕事を生産的なものにし、働く人たちに成果をあげさせること。

3つ目は、自らが社会に与える影響を処理し、社会の問題について貢献することです。

ドラッカーの考え方で重要なのは、「働く人に成果をあげさせる」ことを経営者の役割に明確に含めている点。

経営者自身が成果をあげるだけでなく、社員が成果をあげられる仕組みをつくることが求められているのです。

バーナード:組織を成り立たせる3つの機能

バーナードは著書『経営者の役割』で、組織が成り立つには「共通目的」「貢献意欲」「コミュニケーション」の3要素が必要で、それを維持するのが経営者の機能だと説きました。

チェスター・I・バーナードは、自らも企業の経営者だった人物で、1938年の著書『経営者の役割』は組織論の古典とされています。

バーナードは、組織を「意識的に調整された人々の活動の体系」と捉え、組織が成立するには共通目的・貢献意欲(協働の意思)・コミュニケーションの3要素が必要だと説きました。

そのうえで経営者の機能を、①コミュニケーションの体系を維持する ②組織に必要な努力(貢献)を確保する ③目的を定式化するの3つに整理しています。

経営者の役割を「命令する人」ではなく「人々の協働を成り立たせる人」と捉えた点が、今も読み継がれる理由です。

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組織の3要素意味経営者の機能
共通目的メンバーが共有する目標目的を定式化し、示し続ける
貢献意欲目的のために力を出そうとする意思人が貢献したくなる誘因をつくる
コミュニケーション目的と意欲をつなぐ情報の流れ伝達の体系を設計し、維持する

ミンツバーグ:経営者が実際に担っている10の役割

ミンツバーグは経営者の実際の仕事を観察し、対人関係・情報・意思決定の3分類、10の役割に整理しました。

ヘンリー・ミンツバーグは、複数の経営者の仕事ぶりを観察し、著書『マネジャーの仕事』で、経営者が実際に担っている役割を10に分類しました。

その特徴は、理想論ではなく「経営者は実際に何をしているか」から出発している点です。

観察から見えたのは、経営者の仕事が短く細切れの活動の連続で、計画的に考える時間を確保しにくいという現実でした。

だからこそ、自分がいまどの役割に時間を使っているかを意識することが、経営の質を上げる第一歩になります。

ミンツバーグの10の役割を対人関係・情報・意思決定の3分類で整理した図
ミンツバーグの10の役割(3分類)

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分類役割経営者の行動例
対人関係フィギュアヘッド(象徴)式典や契約など、会社の顔として儀礼的な役目を果たす
対人関係リーダー社員を動機づけ、育成し、方向を示す
対人関係リエゾン(連絡役)社外の人脈をつくり、情報や協力を得る
情報モニター(監視者)社内外の情報を集め、変化をつかむ
情報周知伝達役得た情報や方針を社内に伝える
情報スポークスマン株主や取引先、地域に会社の方針を発信する
意思決定企業家新しい事業や改善の機会を見つけ、変革を起こす
意思決定障害処理者トラブルや危機に対応する
意思決定資源配分者ヒト・モノ・カネ・時間の配分を決める
意思決定交渉者取引先や労働組合などと重要な交渉を行う

3つの理論から見える共通点

3人に共通するのは、経営者の役割を「自分が働くこと」ではなく「組織が成果をあげる状態をつくること」と捉えている点です。

ドラッカーは働く人に成果をあげさせること、バーナードは協働を成り立たせるコミュニケーション、ミンツバーグは情報を集めて伝え、資源を配分する役割を強調しました。

表現は違っても、経営者の役割は「組織を通じて成果を出すこと」という点で一致しています。

本記事で整理した5つの役割も、この考え方に沿っています。

特に組織づくりと人を動かす役割は、3人の理論すべてで中心に置かれているテーマです。

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理論強調している点5つの役割との対応
ドラッカー使命・生産性・社会的責任①方向を決める/④人を動かす/⑤責任
バーナード共通目的・貢献意欲・コミュニケーション①方向を決める/③組織/④人を動かす
ミンツバーグ対人関係・情報・意思決定の10役割②資源配分/④人を動かす/⑤責任

経営者に求められる4つの資質・スキル

経営者に必要な4つの資質・スキル(先を読み決める力・数字で語る力・人を動かす力・任せる力)の図
経営者の役割を支える4つの力

経営者に必要な資質やスキルは数多く語られますが、大きく4つの力にまとめることができます。

生まれ持った才能よりも、意識して鍛えられる力が中心です。

先を読み、決める力(先見性・決断力)

情報が揃うのを待っていては遅いため、不確実な中でも方向を決め、状況に応じて修正する力が求められます。

市場や技術、人材の環境は数年で大きく変わります。

経営者には、完璧な情報がない中で決める力と、決めたことが間違っていたと分かったときに素早く修正する柔軟さの両方が必要です。

デジタル化への対応もその一例で、経済産業省『デジタルガバナンス・コード』は、DXを経営者自らが主導すべき経営課題として位置づけています。

変化を現場任せにせず、経営者が方向を示せるかどうかが問われています。

鍛え方:判断した理由を記録し、3か月後・半年後に結果と照らし合わせる習慣をつけると、判断の精度が上がります。

数字で語る力(財務・会計の理解)

資源配分も責任ある説明も、損益・資金繰り・投資判断などの数字を読めることが前提です。

経営者が数字を読めないと、資源配分の判断が感覚頼みになり、金融機関や株主への説明にも説得力が出ません。

決算書の細かな作成は専門家に任せられますが、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフローの関係を理解し、自社の稼ぐ力と資金の動きを自分の言葉で説明できることは欠かせません。

特に中小企業では、利益が出ていても資金が回らなくなることがあります。

月次で資金繰りを確認する習慣は、経営者の役割を果たすための基本動作です。

セルフチェック
  • 月次の損益を前年・予算と比べて説明できる
  • 3か月先までの資金の出入りを把握している
  • 投資の回収見込みを数字で示せる

人を動かす力(コミュニケーション・リーダーシップ)

経営者の考えを社員に伝え、社員の状況を受け止める双方向のコミュニケーションが、組織を動かす力になります。

どれほど正しい方針でも、社員が理解し、納得しなければ実行されません。

経営者には、方針を自分の言葉で何度も伝える力と、現場の声に耳を傾けて判断に反映する力が求められます。

また、リーダーシップは役職の権限で人を従わせることとは別物で、あらゆる立場の社員が発揮できるスキルです。

経営者が肩書きで人を動かそうとせず、社員一人ひとりがリーダーシップを発揮できる環境をつくることも、人を動かす力の一部です。

ポイント:伝えた「つもり」を防ぐには、方針を文書にして共有し、会議で社員自身の言葉で説明してもらうのが効果的です。

任せる力(自分の役割を絞る力)

経営者が本来の役割に集中するには、自分がやらなくてよい仕事を見極め、人に任せる力も必要です。

まじめな経営者ほど、すべての仕事を自分で抱え込みがち。

しかし、経営者の時間には限りがあり、経営者にしかできない仕事に時間を使えているかが会社の伸びしろを左右します。

任せることは手を抜くことではありません。

任せる範囲と判断の基準を決め、進み具合が見える状態にしておけば、細かな指示をしなくても仕事は前に進みます。

次の章では、そのための具体的な仕組みを紹介します。

セルフチェック
  • 自分が1週間不在でも止まらない業務がどれだけあるか
  • 任せた仕事の進み具合を、聞かなくても確認できるか
  • 部下が判断してよい範囲を伝えているか

中小企業の経営者が役割を果たしにくい理由

中小企業の経営者が陥りやすい3つの落とし穴(プレイヤー化・組織がまわってしまっている・承継の先送り)の図
中小企業の経営者がはまりやすい3つの落とし穴

役割を頭で理解していても、実際の中小企業の経営者は目の前の業務に追われ、本来の役割に手が回らないことが多くあります。

ここでは、データと現場の実感の観点から、役割を果たしにくくなる理由を整理します。

数字で見る中小企業と生産性の現実

日本の企業の99.7%は中小企業で、中小企業の労働生産性は大企業の半分以下という差があります。

中小企業庁『中小企業白書』によると、中小企業は全企業の99.7%を占め、従業者の約70%が中小企業で働いています。

一方で、1人当たりの労働生産性は大企業の605万円に対し、中規模企業は315万円、小規模事業者は168万円と、中小企業の生産性は大企業の半分以下にとどまります。

さらに、総務省統計局『人口推計』によれば、生産年齢人口は1995年の約8,716万人をピークに減り続けており、今後さらに減少する見通しが示されています。

国全体で見ても、日本の労働生産性はOECD加盟38カ国中29位。

人が減る中で会社を成長させるには、一人ひとりの生産性を上げる仕組みづくりが経営者の大きな役割になっています。

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企業規模1人当たり労働生産性大企業との比較
大企業605万円100%
中規模企業315万円約52%
小規模事業者168万円約27%

社長がプレイヤーから抜け出せない

中小企業では社長が最大の営業担当や技術者であることが多く、経営の仕事に使う時間が後回しになりがち。

創業期の会社では、社長自身が誰よりも売り、誰よりも現場を知っていることが強みになります。

ところが会社が大きくなっても同じ働き方を続けると、社長の時間はすべて目の前の業務に吸い取られ、方向を決める・資源を配分する・組織をつくるという経営の仕事が手つかずになります。

さらに、すべての判断が社長に集まる会社では、社長が不在になると仕事が止まるという状態になりがち。

中間管理職が育たず、社長の上に何も積み上がらない「鍋ぶた組織」になってしまうのです。

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症状起きていること影響
社長の承認待ちが多い決裁の範囲が決まっていない仕事のスピードが落ちる
社長しか知らない情報が多い情報がブラックボックス化している社長不在で判断できない
管理職が育たない任される経験がない社長の負担が減らない
方針を考える時間がない日々の業務に時間を取られている変化への対応が遅れる

最後の役割=事業承継が先送りされる

経営者の高齢化が進む中、次の経営者へ会社を引き継ぐ準備も、経営者が果たすべき重要な役割です。

帝国データバンク『全国「社長年齢」分析調査(2025年)』によると、2025年の社長の平均年齢は60.8歳で、調査開始以来の最高を更新し続けています。社長交代率も3%台と低い水準。

事業承継の準備には、後継者の育成や株式・資産の整理、取引先や金融機関との関係の引き継ぎなど、数年単位の時間がかかります。

中小企業庁『事業承継』でも支援策が用意されていますが、動き出すのは現経営者にしかできない判断です。

あわせて、全国銀行協会『経営者保証に関するガイドライン』を活用し、経営者個人の保証に頼らない資金調達の形を整えておくことも、引き継ぎやすい会社づくりにつながります。

  1. 後継者候補と引き継ぐ時期の目安を決める
  2. 会社の数字・取引先・ノウハウを見える形にする
  3. 後継者に権限を少しずつ委ね、判断の経験を積ませる
  4. 株式や個人保証など、承継の障害になるものを整理する

【脱属人化】経営の時間を確保するための仕組みづくり

経営者の役割を実務で回すための4ステップ(時間を見直す・組織をつくる・会議と報告の型・仕事の見える化)の図
役割を「意識」ではなく「仕組み」で回す4ステップ

経営者の役割は、理解するだけでは果たせません。

日々の業務に流されず役割を果たし続けるには、意識ではなく仕組みが必要です。

ここでは、中小企業でも今日から取り組める4つの仕組みを紹介します。

時間の使い方を「経営の仕事」に寄せる

まずは1〜2週間、自分の時間の使い方を記録し、5つの役割にどれだけ時間を使えているかを確かめましょう。

多くの経営者は、自分の時間の大半が現場の業務や突発的な対応に使われていることに、記録して初めて気づきます。

時間を5つの役割と「現場業務」に分けて集計すると、実際に経営の仕事に使えている時間を把握できます。

そのうえで、週に一度、経営の仕事だけに使う時間を予定として確保するのがおすすめ。

方針の見直しや数字の確認、組織の課題の整理といった、緊急ではないが重要な仕事を先送りしない仕組みになります。

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時間の区分主な中身見直しの方向
方向を決める方針・計画の検討、市場の情報収集週に一度は固定で確保する
資源配分・数字損益・資金繰りの確認、投資判断月次で必ず時間を取る
組織・人面談、評価、採用、会議定例化して抜けを防ぐ
対外・責任金融機関・取引先・株主への説明四半期ごとなど時期を決める
現場業務営業、制作、トラブル対応任せられるものから減らす

組織図・業務分掌・職務権限で「任せる」を形にする

役割と決裁の範囲を文書にすると、経営者が逐一判断しなくても仕事が進む組織になります。

組織の構築には、①組織図の作成 ②業務分掌規程の制定 ③職務権限規程の制定の3つが必要です。

組織図で指揮命令の流れを示し、業務分掌で部署ごとの担当範囲を、職務権限で誰がどこまで決めてよいかを定める、という順番です。

最初から完璧な規程をつくる必要はありません。

まずは今の実態を書き出し、「この判断は部門長に任せる」と決めるところから始めると、社長に集中していた判断が少しずつ分散していきます。

  1. 今の指揮系統をそのまま組織図にする
  2. 部署ごとに担当している業務を一覧にする(業務分掌)
  3. 金額や内容ごとに、誰が決めてよいかを決める(職務権限)
  4. 半年に一度、実態とずれていないかを見直す

定例会議と報告の型で、情報が上がる流れをつくる

会議の目的と報告の型を決めると、経営者が聞いて回らなくても必要な情報が集まるようになります。

組織の構築とあわせて整えたいのが、①定例会議の設定 ②コミュニケーション・ツールの整備 ③報告フォーマットの整備という、コミュニケーションの仕組みです。

経営者が個別に聞いて回る状態では、情報の質も量も経営者の時間に左右されてしまいます。

週次の定例会議で「先週の結果・今週の予定・困っていること」を同じ型で報告してもらうだけでも、問題に早く気づける組織に近づきます。

報告の型が揃うと、経営者は数字と課題の比較がしやすくなり、資源配分の判断も早くなります。

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仕組み決めること効果
定例会議頻度・参加者・議題・時間情報共有と意思決定の場が固定される
コミュニケーション・ツール連絡手段と使い分けのルール連絡の抜けや埋もれを防ぐ
報告フォーマット報告する項目と書き方比較しやすく、判断が速くなる

チームのタスクを見える化して、任せても進む状態にする

「誰が・何を・いつまでに」が全員で共有できていれば、経営者は細かな確認をしなくても仕事の進み具合を把握できます。

社長が個別に確認して回る状態と、チームのタスクが見える化された状態の比較図
見える化の前と後:確認して回る経営から、見て判断する経営へ

任せた仕事がどこまで進んでいるか分からないと、経営者は不安になり、結局は細かく口を出してしまいます。

任せることと把握することを両立させるには、チームのタスクを全員が見られる状態にしておくのがおすすめ。

組織の生産性向上には、「チームのタスク管理」と「タスクの見える化」が欠かせません。

見える化ができていれば、期限が迫っている仕事や担当が偏っている部分に、経営者が早く気づけるようになります。

現場にとっても、自分の仕事が全体のどこにつながっているかが分かり、社長に逐一報告する負担が減ります。

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よくある質問(FAQ)

経営者の役割について、よく寄せられる疑問にお答えします。

経営者と社長は同じ意味ですか?

ほぼ同じ意味で使われますが、厳密には異なります。社長は会社内の役職名で、経営者は会社の方向を決めて責任を負う立場の総称です。代表取締役や取締役、個人事業主も経営者に含まれます。

経営者の役割で最も重要なものは何ですか?

会社の進む方向を決めることです。資源配分も組織づくりも、方向が決まっていなければ判断の基準がありません。ただし方向を決めるだけでなく、組織と人を通じて実行し、結果に責任を持つところまでが経営者の役割です。

経営者と管理職の役割の違いは何ですか?

経営者は会社全体の「何をやるか」を長い時間軸で決め、管理職は決まった方針を自部署で「どうやるか」を担います。見る範囲と時間軸、責任を負う相手が異なります。

中小企業の経営者がまず取り組むべきことは?

自分の時間の使い方を記録し、経営の仕事にどれだけ時間を使えているかを確かめることです。そのうえで、組織図や決裁の範囲を決めて任せられる仕事を増やし、チームの仕事を見える化すると、経営者が本来の役割に集中しやすくなります。

経営者に資格は必要ですか?

株式会社の取締役や代表取締役になるために特別な資格は必要ありません。ただし、会社法上の義務や責任を負う立場であるため、財務や法務の基本的な知識は身につけておくことが望まれます。

経営者の責任にはどのようなものがありますか?

会社法では、取締役は会社に対して善管注意義務と忠実義務を負い、任務を怠った場合は会社や第三者への損害賠償責任が生じることがあります。加えて、社員の安全に配慮する義務や、株主・金融機関などへの説明責任もあります。

まとめ:経営者の役割は「組織を通じて成果を出す」こと

経営者の役割は、①方向を決める ②資源を配分する ③組織をつくる ④人を動かし育てる ⑤成果と責任を引き受けるの5つ。

管理職が「どうやるか」を担うのに対し、経営者は「何をやるか」を決め、会社全体の結果に法的にも責任を負います。

ドラッカー・バーナード・ミンツバーグの考え方にも共通するように、経営者の本質は、自分が働くことではなく、組織が成果をあげる状態をつくることです。

中小企業の経営者ほど、目の前の業務に追われて本来の役割が後回しになりがち。

時間の使い方を見直し、組織図や決裁の範囲で任せる仕組みをつくり、チームの仕事を見える化することから始めてみてください。

この記事のポイント
  • 経営者は会社の方向を決め、結果に最終責任を負う人
  • 役割は「決める・配る・つくる・動かす・引き受ける」の5つ
  • 取締役には会社法上の善管注意義務・忠実義務がある
  • 役割を果たすには、意識ではなく仕組み(組織・会議・見える化)が必要

参考文献・出典

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